先日、ふと思い立って東京・大井競馬場へと足を運びました。 目的は競馬の観戦ではなく、冬季限定で開催されている「東京メガイルミネーション」です。

広大な敷地を利用したこの光の祭典は、都内でも有数の規模を誇りますが、私が特に心を奪われたのは、きらびやかなプロジェクションマッピングや派手な演出のエリアではありませんでした。それは、「和のきらめきエリア」と呼ばれる、どこか静謐な空気が漂う一角でした。

添付した写真をご覧ください。 闇夜に浮かび上がるのは、無数に並ぶ光の粒。 それはまるで、風に揺れる稲穂のようであり、田園風景そのものでした。

東京の、しかも大井競馬場という「都市の喧騒」の象徴のような場所に、突如として現れた「日本の原風景」。 光で作られたその景色は、実際の稲作地帯ではないにもかかわらず、不思議なほどの懐かしさと、心の奥底に眠る記憶を呼び覚ますような力を持っていました。

私たちは普段、明るさや華やかさを求めて照明を選びがちです。しかし、この場所で感じたのは、それとは対極にある美しさでした。 決して目を刺すような強い光ではありません。むしろ、闇を優しく受け入れ、その中でほのかに揺らぐような光。その繊細な輝きが、見る人の心に静けさをもたらし、都会の慌ただしさを忘れさせてくれるのです。

「光で、情景を描く」

この体験は、私たちreborn-design清田博典デザイン事務所が手掛ける空間づくり、特に照明計画において非常に重要な示唆を与えてくれます。

家づくりにおいて、照明は単に「部屋を明るくする機能」として捉えられがちです。しかし、本来、光とはもっと情緒的で、人の感情に直接働きかけることができるエレメントなのです。

例えば、リノベーションの現場でお客様と照明の話をするとき、私はよく「どのような時間を過ごしたいですか?」と問いかけます。「本を読みたい」のであれば手元を照らす機能的な光が必要ですが、「リラックスしたい」「家族と語らいたい」という場面では、部屋全体を均一に明るくする必要はありません。

むしろ、今回のイルミネーションのように、陰影を恐れず、必要な場所にだけ情緒的な光を灯すこと。壁面に光を当てて素材の質感を浮き上がらせたり、足元に低い光を配置して落ち着きを演出したりすること。そうした「光と影のバランス」こそが、空間の奥行きを生み、そこに住まう人の心に安らぎを与えるのです。