素材と光で空間をつくる

先日、とある地下通路を歩きました。
そこには壁と床を縁取るように走る一本の光が、まるで未来への道筋を示すかのように灯されていました。素材そのものは無機質な壁にすぎません。しかし、そこに光が加わった瞬間、空間はただの通路ではなく、「物語を感じる舞台」へと変わっていたのです。

私はこの体験を通じて、改めて思いました。
建築における素材や光の役割は、単なる「装飾」ではない。人の心に静かな感動を生むための「媒介」であり、空間の存在理由を示す「言葉」のようなものだと。


素材は固定されたものではない

私が空間をデザインするとき、常に意識しているのは「素材の固定観念から自由になる」ということです。
例えば瓦。瓦といえば多くの人が屋根材を思い浮かべるでしょう。しかし、もしそれを壁面に張ったらどうでしょうか。そこには「懐かしさ」と「意外性」が同居する、不思議な質感の風景が生まれます。瓦の重なりが生む陰影は、単調な壁にリズムを与え、光の当たり方によって表情を変えていきます。

つまり素材は、その用途が定められているように見えても、必ずしも一つの答えしか持っていないわけではありません。シンプルな素材であっても、使い方ひとつで空間の印象はがらりと変わるのです。


光が素材を語らせる

光は、素材の「声」を引き出す存在です。
木目の柔らかさも、石の重厚さも、瓦の陰影も、光が当たらなければ伝わりません。光によって素材は表情を持ち、人はその物語に触れることができるのです。

私が冒頭に触れた通路の写真がまさにそうでした。平凡な壁面は、緑の直線的な光によって未来的な印象を帯び、そこを歩く人に「ここはどこへ続くのだろう」という期待を抱かせていました。光は素材を超え、空間を詩的に語らせる力を持っています。

居酒屋の入口や新築マンションのエントランスも同じです。人が「これから始まる時間」への気持ちを高める場面において、素材と光の組み合わせがどれほど大きな意味を持つか。単に豪華さを演出するのではなく、訪れる人の心を揺さぶり、「ここで過ごしたい」と思わせる空気をつくり出すのです。


サステナブルな視点からの素材選び

近年、建築やインテリアの分野では「サステナビリティ」や「ウェルビーイング」が重要なキーワードとなっています。これは単なる流行ではなく、人がどのように環境と共生し、心豊かに暮らしていけるかという問いかけです。

素材の使い方を工夫することは、サステナブルな発想にもつながります。新しく高価な素材を大量に使うのではなく、既存の素材に新しい役割を与える。瓦を壁にすることもその一例ですし、古材を別の文脈で生かすことも同じ発想です。そこには「ものを大切にする心」や「再生する喜び」が宿り、空間に温度を与えます。

そして光。自然光を効果的に取り入れたり、エネルギー効率の良い照明を選ぶことで、環境負荷を抑えながら豊かな表情を生み出すことができます。光の演出はエネルギーの無駄遣いではなく、むしろ「最小限の力で最大限の感動を生む」ことができるのです。


遊び心が空間を豊かにする

素材や光の扱いにおいて忘れてはいけないのが「遊び心」です。
素材をただ機能的に使うだけでは、空間は無機質なものにとどまります。そこに少しの意外性やユーモアを忍ばせることで、人の心は動きます。

たとえば瓦を壁に貼るという発想も、真剣な遊び心から生まれます。「こうでなければならない」という常識を一度外してみると、新しい物語が始まります。光もまた同じで、ただ明るく照らすだけではなく、「導く」「包む」「驚かせる」といった感情を刺激する使い方が可能です。

空間は人の記憶に残る舞台です。だからこそ、そこにほんの少しの遊び心を加えることで、その場は人にとって特別な居場所へと変わるのだと思います。


おわりに

素材と光は、私たちが日常で当たり前に触れている存在です。しかし、その当たり前をどう扱うかによって、空間は単なる器から「感動を与える舞台」へと変わります。

瓦を壁に張る。光で無機質な通路を未来的に変える。素材の使い方を工夫することは、限りない可能性を秘めています。そしてその工夫こそが、空間を訪れる人々の心を揺さぶり、豊かな体験へと導くのだと私は信じています。 素材の使い方。光の使い方。
その二つの交差点にこそ、私のデザインの原点があります。