展覧会の絵、そして建築へ。


—音楽が拓いた、私のデザインの原風景—

「音楽から、建築は作れないだろうか?」

それは、まだ若かった大学時代、卒業制作のテーマを前にして、私の頭に稲妻のように閃いた問いでした。きっかけは、ムソルグスキーのピアノ組曲『展覧会の絵』。亡き友人の遺した絵画を鑑賞しながら、その一枚一枚の印象を音楽で表現したこの楽曲は、私の心を強く捉えました。

絵画(視覚)が音楽(聴覚)になるのなら、その逆もまた然り。音楽が持つリズムやハーモニー、メロディを、空間(建築)として再構築することはできないか。無謀とも思えるこの挑戦に、当時の私はすっかり魅了されてしまったのです。

プロムナードの荘厳な歩みはアプローチの動線に。古城の物悲しい旋律は、陰影の深い空間に。卵の殻をつけた雛の踊りの軽やかさは、光が舞うリズミカルな小部屋に。音符を一つひとつ拾い上げるように、楽曲の世界を建築言語へと翻訳していく作業は、困難でありながら、創造の喜びに満ちていました。

この卒業制作は、私のデザイナーとしての「原点」になったと、今でも確信しています。

目に見えないものを、いかにして感じられるカタチにするか。 聴覚、触覚、嗅覚といった、視覚以外の感覚をいかにして空間に織り込むか。

このテーマは、今も私のデザイン哲学の根幹に流れ続けています。お客様の「こんな風に暮らしたい」という言葉にならない想いは、さながら一つの楽曲です。その旋律に耳を澄ませ、リズムを感じ取り、空間という名の譜面に起こしていく。私の仕事は、そんなオーケストラの指揮者のようなものかもしれません。

今でも、行き詰まった時には音楽を聴きます。すると、あの頃の純粋な問いが蘇ってくるのです。 「この感動を、どうすれば空間にできるだろうか?」と。 その答えを探す旅が、私のデザインそのものなのです。