再生という名のデザイン
〜中古住宅に、もう一度、命を吹き込む〜

先日、都内で開催されていた北斎のデジタルアート展示に足を運びました。
かの名作『神奈川沖浪裏』が、光と音、そして振動に包まれながら壁面いっぱいに展開される空間は、「鑑賞」というよりも「体験」と呼ぶべきものでした。
波のざわめきが足元から響き、風が頬をかすめる。
視覚だけでなく、聴覚や触覚を通じて伝わってくる情報が、絵に新たな命を与えているように感じられました。
その体験の最中、ふと「古いものに新たな価値を与える」という自分の仕事と、どこか重なる感覚を覚えたのです。
私たちが手がける「中古住宅の再生リノベーション」もまた、過去と現在をつなぎ直す現代的な再解釈です。
時間の経過とともに古びていく住宅やマンション。その劣化や時代のズレを「ゼロ」に戻すのではなく、いかに継承し、どのように環境と調和させていくか。そこに、リノベーションの本質があると考えています。
家という存在は、単なる箱ではありません。その空間には、かつての生活の気配や、建てられた当時の思想、地域との関係性が残っています。だからこそ私たちは、ただ新しくするのではなく、物語を引き継ぐことを意識しています。
現地調査に赴くとき、私はまず「空気」を感じ取るようにしています。
周囲の街並み、光の入り方、風の通り道、そして土地の匂い──。その家が建っている「環境」と、その家自身が発している「気配」。それらを丁寧に読み解いていくことが、リノベーションの出発点になります。
とくに大切にしているのが、エントランスの印象です。玄関先やマンションのエントランスは、その住まいの顔であり、物語の始まりでもある。そこがくたびれていると、どれだけ内部を整えても、住まい全体が仮住まいのように見えてしまうのです。
逆に言えば、エントランスの設えひとつで、住まいが放つ空気感は劇的に変わります。照明の色温度や、仕上げ材の素材感、植栽の有無──わずかな工夫で「暮らしの入口」に命が宿る。それは、訪れる人だけでなく、そこで暮らす人の意識をも変えていくのです。
ある物件では、玄関扉を無垢材に変更し、ポーチに柔らかな灯りを添えただけで、住まいの印象が見違えるように変わりました。
「ここに住んでみたい」と思わせる力は、そうした細部に宿るのだと、改めて感じた瞬間でした。
リノベーションとは、単に古さを新しさに置き換えることではありません。それは、過去に育まれた記憶と、これからの暮らしの希望をつなぐ作業です。物理的に再構築するだけでなく、心理的にも暮らしを始めたくなる空間へと導いていく。そこに私たちの使命があると考えています。「ただ綺麗になった」ではなく、「この場所で新しい人生を始めたい」と感じてもらえること。それが、私たちにとっての“成功”です。
北斎の波が時代を越えて人々の心を揺さぶるのは、単なる構図の巧みさや技術によるものではないでしょう。その中には、人の営みや自然への畏れ、そして言葉にできない感情が込められています。 私たちのデザインも、ただ整った空間ではなく、そこに感じる力を宿すことを目指したい。機能性や合理性の先にある、“心に響く空間”を目指して。そして、その感情こそが、人の心に届く空間を生み出すのだと、改めて確信しました。
