年の終わりに、デザインの『多様性』を想う
福岡・甘木で見つけた、優しき空間の在り方

はじめに

2025年も、残すところあと数日となりました。 カレンダーの最後の一枚をめくるこの時期、私たちは誰もが、駆け抜けてきた一年を振り返り、来たるべき新しい年に想いを馳せます。

私にとっても、今年は多くの「空間」と向き合い、対話を重ねた一年でした。常に「洗練」や「機能美」、あるいは「驚き」を求めてデザインの可能性を探求してきましたが、年の瀬も押し迫った先日、福岡・甘木の地で、これまでの私の価値観を静かに、しかし力強く揺さぶる体験に出会いました。

訪れたのは、高齢者に特化した温浴施設「卑弥呼ロマンの湯」です。

木の温もりと、質の良い湯が語りかけるもの

館内に一歩足を踏み入れた瞬間、私を包み込んだのは、どこか懐かしく、そして圧倒的にやさしい「木の温もり」でした。

そこには、都会の商業施設にあるようなエッジの効いた照明も、意図的に計算されたドラマチックな動線もありません。しかし、使い込まれた素材が放つ柔らかな空気感と、湯気の中に溶け込む静寂が、身体だけでなく、一年間の緊張で凝り固まっていた心までも解きほぐしていくのを感じました。

特に印象的だったのは、お湯の質とその「寄り添い方」です。 身体に無理なく染み渡る良質な温泉は、単なる「入浴」という行為を超えて、そこに集う人々の生命力を静かに慈しんでいるかのようでした。

「洗練」の対極にある、もう一つの本質

我々デザイナーは、時として「より新しく、より美しく」という呪縛に囚われがちです。シャープなライン、厳選された最先端の素材、無駄を削ぎ落としたミニマリズム。それらは確かに素晴らしい「デザイン」の成果です。

しかし、「卑弥呼ロマンの湯」が体現していたのは、その対極にある価値観でした。 年齢を重ね、多くの経験を積んできた方々にとって、本当に心地よい空間とは何か。 その答えは、饒舌な主張ではなく、**「静かで、無理がなく、安心できること」**という、極めてシンプルで根源的な場所にありました。

手すりの位置、床の質感、視界に入る色彩のトーン。 それらは決して目立つことはありませんが、使う人の心身に一切の負担をかけないよう、徹底的に「優しさ」というフィルターを通して設えられています。 「人を主役にし、デザインを黒子に徹させる」 この徹底したホスピタリティこそが、デザインのもう一つの、そして極めて本質的な在り方なのだと、改めて教えられた気がします。

デザインの多様性が、世界を豊かにする

「再生(reborn)」を掲げ、空間の新しい価値を創造することを目指してきた私にとって、この体験は大きな収穫となりました。

デザインには、決まった正解などありません。 最先端のテクノロジーを駆使した未来的な空間も、地域の高齢者に寄り添う温かな温浴施設も、どちらも「人の心を豊かにする」という一点において、等しく尊い存在です。

空間が持つべき「答え」は、そこに集う人の数だけ、そして時代や状況の数だけ存在する。その「多様性」を認め、一つひとつの物語に最適な答えを導き出すことこそが、私に課せられた使命なのだと、甘木の柔らかな湯の中で再確認しました。

おわりに

2025年、reborn-designを支えてくださったクライアントの皆様、そして共に歩んでくれた仲間の皆様に、心より感謝申し上げます。

来年も、ある時は鋭く洗練された美しさを、またある時は包み込むような優しさを。 皆様の人生という舞台にふさわしい「感動」をカタチにできるよう、真摯に空間と向き合ってまいる所存です。

どうぞ、穏やかで温かな新年をお迎えください。 2026年も、皆様と共に新しい物語を紡げることを楽しみにしております。