眺望を切り取る「仕掛け」が生む感動

〜小室山カフェのデッキ体験から〜

先日、伊豆の小室山にあるカフェを訪れました。
そこには、海へとせり出すように設けられた印象的なデッキがありました。

床は木材で仕上げられ、手すりは透明なガラス。遮るものがなく、立つとまるで空中に浮かんでいるかのような感覚に包まれます。眼下には森と街並み、そして広がる相模湾。私は思わず深呼吸をし、景色と一体になるような心地よさを感じました。

そして周囲を見渡すと、若いカップルやファミリーが次々とデッキに立ち、記念の写真を撮っていました。その姿を見ながら思ったのは、あのデッキが単なる展望施設ではなく、人々が「記憶を刻む舞台」になっているということです。


感動を呼び込む仕掛け

空間において「感動を呼び込む仕掛け」がいかに大切か、改めて実感しました。

景色自体はそこに常に存在しています。しかし、それをどう体験させるかは設計の工夫次第です。
もしデッキがなければ、人は丘の上から「きれいだね」と感じて終わったかもしれません。けれど、一歩せり出した場所に立つことで、景色の中へ没入し、強い感動を得られるのです。

空間デザインにおいて重要なのは「見せる」ことではなく、「感じさせる」こと。突き出したデッキは、その役割を見事に果たしていました。


空間は記憶を刻む舞台

あの場所には、もう一つの魅力がありました。人々が「写真を撮りたくなる」ということです。
SNSで発信されることで、訪れた人の記憶だけでなく、まだ訪れていない人の心にも「行ってみたい」という感情を呼び起こす。空間は、体験を通じて広がり、記憶と物語を積み重ねていきます。

これは住宅や商業施設でも同じです。
ただの通路ではなく、立ち止まりたくなる場所にする。光の入り方や素材の手触り、ちょっとした仕掛けが、空間に命を吹き込みます。


仕掛けは余韻をつくるもの

仕掛けというと、派手さや奇抜さを想像されるかもしれません。
しかし小室山のデッキが心に残ったのは、自然を邪魔しない誠実な設計だったからです。
透明なガラスは視界を遮らず、木の床は緑と調和していました。あくまで背景を引き立て、人の感情を優しく導く存在であったことが、その魅力につながっていたのです。

仕掛けとは過剰な演出ではなく、心に余韻を残す工夫。だからこそ、人の記憶に深く刻まれるのだと思います。


結びに

小室山での体験は、私自身の仕事への姿勢をあらためて確かめる機会となりました。
感動は偶然訪れるのではなく、空間に仕掛けを忍ばせることで呼び込むことができる。
そしてその仕掛けは、派手さではなく自然や人の営みに寄り添うものでなければならない――。

空間は、人が立ち、感じ、記憶を刻む舞台です。
私はこれからも、感動を呼び込む仕掛けを大切にしながら、人の心に残る空間をつくり続けていきたいと思います。